[Diary] ありがとう、お姉ちゃん
私がまだ幼かった頃でした。
その頃はよく母方の親戚の家に週末遊びに行くことが多かったんですが、私と同じように私の親戚の家によく遊びに来る女性がいました。その方は私より年上で、頻繁に会うほどではなかったものの、会うたびに私のことをよく可愛がってくれるような優しいお姉ちゃん的存在でした。そんなお姉ちゃんと知り合って数年が経った頃、突然親戚からこんな報告を受けました。
「あのお姉ちゃん、プロの漫画家になってんで」
私の周りには何らかのプロを目指しそこに向かって突き進んでいく人が沢山いましたが、プロと呼べる人が私のすぐ近くで誕生したのはとても大きな衝撃で、我が事のようにとても嬉しかったと同時に、お姉ちゃんが羨望の的になった瞬間でもありました。そしてそれは自分の中で少しずつ遠い存在になり始めた瞬間でもありました。
プロ漫画家になって多忙になったお姉ちゃん。大人に近づくに連れ親戚の家から足が遠のいていった自分。時が経てば環境は変わるもので、その変化が二人の距離をますます遠ざける事になってしまいました。そして顔を合わす機会がめっきり減ったある日のこと、親戚から電話で「お姉ちゃんからあんたにって、プレゼント預かってるで」という連絡が。早速親戚からプレゼント箱をもらって箱を開くと、それはゴルチエの腕時計でした。私が大学試験に合格したそのお祝いにと用意してくれたものでした。
そしてそのプレゼントのお礼を電話で伝えた直後ぐらいだったでしょうか。本当は直接面と向かってお礼を言いたかったんですが、お姉ちゃんは執筆業が本格的に忙しくなり、とうとう上京することになりました。それを機にお姉ちゃんとは音信不通になりました。
「お姉ちゃんの作品が単行本になったらしいよ」
「お姉ちゃんの単行本がすごく売れてるらしいよ」
「お姉ちゃんの作品がドラマになるんだって」
お姉ちゃんの活躍ぶりは間接的に聞くようになり、そしてその伝聞内容は時が経つに連れ規模が大きくなっていきました。その頃から噂を聞くたび、嬉しい反面複雑な思いもありました。それは嫉妬などではなく、お姉ちゃんが段々雲の上の存在になってしまった事による寂しさでした。
そして時はさらに過ぎ、自分がインターネットを介して創作活動の類を行うようになってから、お姉ちゃんのサイトがあることを知った私はサイトにある連絡フォームにそれとなくメッセージを送るようになりました。そしてある日のこと、突然そのお姉ちゃんから直接メールが届きました。
「お元気ですか?(中略)コミックス(※補足:ろいぱらの事)も買わせて頂いたよー」
お姉ちゃんは私の事を忘れるどころか、最近の活動までしっかり見ててくれていたのです。10年以上音沙汰のなかった自分の事を忘れるどころか、最近の活動を見てくれていたなんて、正直言って予想外で驚きました。その直後、言葉では言い尽くせないほどの感謝の気持ちでいっぱいになりました。
それから暫くして直接会う機会ができ、10年以上ぶりに再会することができました。待ち合わせ場所で遭遇してもお互いわかるだろうかという不安はありましたが、お姉ちゃんは当時の面影そのままだったので私は一瞬でわかりました。久しぶりの再会なので最初は何となくぎこちなかったんですがあっという間に肩の力は抜け、お互いの近況報告や昔話など、数時間程度では話し尽くせないほど沢山お喋りしました。
「あの頃から色々変わったね」なんて話をしながらも、お姉ちゃんはいわゆる作家然とした雰囲気は微塵もなく、私にとっては昔と変わらないお姉ちゃんのままでした。ただその日、私の中では見えない大きな変化がありました。それは今までお姉ちゃんという存在だった人が、尊敬する先生でもあり、友達にもなった瞬間でもありました。
今まで見守ってくれてありがとう。
そしてこれからもよろしくね。
中条比紗也お姉ちゃん。
<関連リンク>
WILD VANILLA(中条比紗也 公式サイト)